お使い

作者 ヴぇいn

体よく言いくるめられた感がある。

今アイドル部は、秋の出し物としてちょっと大がかりなセットを作成している。主に6年生が中心となり作業は順調に進んでいたのだが、突然真奈美が慌てたように声を荒げた。

どうやら見積もりが甘く、セットの材料が不足してしまったようだ。

下級生である5年生の誰かにお使いに行って欲しいとの部長であるひかりのお願いで、夢叶は一枚の紙を手にショッピングモールに来ていた。

当初、夢叶と麗子の2人が適任だという流れだったのだが、くるみを追っかけるキャロルを見て部屋の中の空気が変わった。

キャロルがいない方が捗る、と。

実は体調が、と大嘘をついた麗子に透の「それは大変だ」のアシストを経て、乃愛の「夢叶と同じクラスのキャロルが~」と事前に打ち合わせしていたのかと思わせる華麗な連携プレーにより、夢叶とキャロルの2人によるお使いへと相成った。

釈然としない気持ちのまま、夢叶は真奈美が書いたお店を探してショッピングモールを進んでいた。

「夢叶様と2人でお出かけですぅ」

楽しそうに夢叶の後ろをニコニコと笑顔を振りまいてついてくるキャロルをちらりと振り返りつつ、夢叶は教室を出る直前のことを思い出していた。

「急いでないからね。ゆっくりでいいからね」

とくるみに釘を刺されたのだ。

「ま、頼りにされるのは悪くないけどね」

「夢叶様、今何か言いましたか~?」

「別に」

素っ気なく答える。

夢叶は真奈美に渡された紙にかかれた店名を探し、歩を進めているとようやく一致する名前の看板を発見した。

「あった、ここね。キャロル入るわよ」

「は~い」

紙に書かれていた物を一通り購入した夢叶は、キャロルと2人で買い物袋をわけて帰路へ着く。

「これであとは学校へ戻るだけね」

「簡単なお使いだったですね~」

キャロルと並んでショッピングモールを抜ける瞬間、前方に見知った顔を見つけた。

夢叶は「どうして!?」と思うと同時に、相手の男も夢叶に気づいたのか右手をあげて声をかけてきた。

「ユメカァ!」

「あ、夢叶様のお兄様!」

「お兄様!?」

キャロルの呼びかけに夢叶の兄が大仰に反応した。

「夢叶聞いたか。夢叶もたまには兄のことを――」

「なんでアイドルバカがここにいるのよ」

「手厳しい!」

何か言いたげな兄の台詞を夢叶の容赦のない一言が上書きする。

この人の往来が多い場所でこんなやつと兄妹だと思われるのは嫌だ。夢叶は一秒でも早くこの場から離れようと「じゃ」と歩き出した。

「お兄様もお買い物ですか?」

「そうなんだよねー、こんなところで会うなんてまさかって感じでウケル」

「ちょっ!」

夢叶の目論見とは裏腹にキャロルが立ち話を始めようとしていた。

「何してるのよキャロル。そんなのほっといてみんなのところに帰るわよ」

「そんなの扱い! お兄様悲しい!」

「それはもういいから!」

往来のど真ん中に突っ立てることもあり、通行人の邪魔だという視線が突き刺さる。夢叶の内心は色々な恥ずかしさで焦りが増していた。

「ハッ、わかった夢叶お前さては――」

真面目な顔をして何かを口走ろうとした兄の鳩尾に、鉄拳が炸裂した。

もちろんそれは夢叶の放った一撃だが、彼女の顔は怒りとは違った意味で紅葉していた。

「わぁ!」

隣でなぜかちょっと喜んでいる風な声をあげるキャロルのことが少し気になったが、

「いったい何を言うつもりだったのかな、このバカ兄は♪」

お腹を押さえうずくまる兄と同じ目線にしゃがみ込んだ夢叶が満面の笑みで詰め寄る。しかしその笑顔を象る瞳は全く笑っていない。

「夢叶、きっとお前ならいい格闘家になれる」

グッと親指を立てて歯を見せる兄の脳天を、夢叶の手刀が叩き割る。

「ぐふっ」

「アタシがなるのはア・イ・ド・ル!」

今度こそ倒れ込んだ兄を見捨てて、夢叶はキャロルの腕を引いて一目散に立ち去ることにした。

「夢叶様、お兄様はあのままでよいのですかぁ?」

「あのくらいで死んだら兄は務まらないのよ」

「おお、お兄様はすごいですぅ」

このあと、教室に戻ってから一騒動あるのだが、それはまた別のお話。

 

終わり

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